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協力研究員(理研所属):遠藤 誉英 ダウンロードへ 論文リスト>>

研究の概要

生体の流体現象の数値シミュレーション

 イルカは筋力に比して非常に高速で泳ぐことが可能である。 その秘密は柔軟な肌(粘弾性被膜)が微小変形をすることにあると言われている。 粘弾性皮膜の変形は、周囲流体の圧力変動によるものであり、エネルギ投入を必要としないため、生物から学ぶ理想的な流体制御デバイスになると期待される。 粘弾性被膜には、乱流遷移遅延効果と乱流摩擦抵抗低減効果があると考えられており、前者については、実験および線形撹乱方程式を用いた数値計算により、遷移レイノルズ数が高くなることが示されている。 一方、乱流摩擦抵抗低減効果については、変形する境界壁面近傍の流れの実験的計測が困難であることから追実験が不可能であったために、効果の真偽およびそのメカニズムはいまだに明らかになっていない。

 近年、計算機性能が飛躍的に発展し、複雑な境界を持つ流れ場の直接数値シミュレーションが可能になりつつある。 数値計算においては、実験的には計測困難である壁面近傍の流れの物理量が詳細に得られ、また粘弾性被膜の物性値も現実的な値から仮想的な値まで自由に与える仮想実験が可能であるため、粘弾性被膜による流れ制御のメカニズムを解明する有効なツールになると期待される。

 本研究ではまず、粘弾性被膜の摩擦抵抗低減効果の真偽を調べ、抵抗低減に最適な粘弾性皮膜の物性値を数値実験によって調べることを目的に、粘弾性被膜を有する平行平板間乱流の直接数値シミュレーションコードを構築した(→論文リスト(1),(2))。 ここで単純化のために、粘弾性被膜は図1 に示すようなバネ・マス・ダンパ系にモデル化した。 平行平板間乱流に代表される壁乱流では、壁面近傍の縦渦構造が乱流摩擦抵抗やレイノルズ応力に多大な寄与を及ぼすことが知られており、縦渦構造の回転運動を抑制することによって、摩擦抵抗の低減が計られることが知られている。
図1 粘弾性被膜のモデル化.
図1 粘弾性被膜のモデル化.
Schematic model for a compliant surface.

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 また、縦渦構造は壁面圧力変動と密接な関係がある(図2)。 そこで、壁面圧力変動の時間変化と粘弾性被膜の変形速度が同位相になるように粘弾性皮膜の物性値を与えたシミュレーションを行った。 図3 (a) 、(b) は、粘弾性被膜が変形を始めた初期と、十分に時間が経った時刻における壁面近傍の乱流純秩序構造のトップビューを示す。 縦渦構造の回転運動が抑制され、低速ストリークの揺動が抑制されることにより、乱流が不活性化していることが分かる。 このとき、平均で3%程度の摩擦抵抗低減が得られることを示した(→論文リスト(4))。

図2 縦渦構造近傍の流れ場の概念図および、渦を抑制するために求められる粘弾性被膜の変形速度. 図3 粘弾性被膜近傍の流れの瞬時場。(a) 図3 粘弾性被膜近傍の流れの瞬時場。(b)
図2 縦渦構造近傍の流れ場の概念図および、渦を抑制するために求められる粘弾性被膜の変形速度.
Schematic of flow field near streamwise vortices,and desired wall velocity of compliant surface to suppress the vortices.
図3 粘弾性被膜近傍の流れの瞬時場。
(a) t^+=4.86,(b) t^+=301. 青: u'^+=-3.5,赤: u'^+=+3.5,白: II^+=-0.03.
Instantaneous flow field of the compliant channel flow.
(a) t^+=4.86
(b) t^+=301.Blue: u'^+=-3.5,Red: u'^+=+3.5,white: II^+=-0.03.

 また、粘弾性被膜の工学的な応用としては、旅客機や大型船舶など、物体の外部を流体が流れる外部流に適用することが考えられる。 そこで、本研究では物体周囲の数値シミュレーションコードを構築した。 ここでは、単純なモデルとして円柱や球を取り上げ、粘弾性被膜が摩擦抵抗や圧力抵抗、揚力に与える影響を調べた。 図4、図5に示すように、円柱および球後流には交互に放出されるカルマン渦が発生し、粘弾性被膜は微小な変形を示した。 円柱上流部や球上流部の淀み点近傍で円柱/球は平坦になり、上流からの投影面積が増大するため圧力抵抗は増大するものの、摩擦抵抗を減少させることが可能であることを示した(→論文リスト(7),(8))。
  この結果は、全抗力のうち9割以上を摩擦抵抗が占める大型船舶や航空機などへの、粘弾性被膜の摩擦抵抗低減デバイスとしての応用可能性を示したものである。

図4 粘弾性被膜を有する円柱周囲の流れの瞬時場。 図5 粘弾性被膜を有する球周囲の流れの瞬時場。
図4 粘弾性被膜を有する円柱周囲の流れの瞬時場。
Instantaneous flow field around a compliant cylinder.
図5 粘弾性被膜を有する球周囲の流れの瞬時場。
Instantaneous flow field around a compliant sphere.

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