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協力研究員(理研所属):長野 明紀 ダウンロードへ 論文リスト>>

研究の概要

 本プロジェクトの一環として、ヒトによる身体運動の力学的コンピューター・シミュレーションを行って来た。特に神経・筋・骨格系の振舞いに着目し、日常生活やスポーツの中で見られる動作を行うに際して、これらの身体構成要素が如何なる挙動をしているかを考察した。また、スポーツ動作のパフォーマンスを高める為に如何なるトレーニングを行うことが望ましいかを検討した。
  これらの研究成果は、実験的な手法を用いて実施する事が困難な課題に、コンピューター・シミュレーションの技法を用いて取り組んだものである。この方向性の取り組みは、現在まで取り扱って来た分野の課題に限らず、医療やリハビリテーション等の分野に属する課題に対しても、有意義な貢献を出来るものと考えられる。以下にこれまで行って来た個別の研究テーマについての概略を紹介する。

[1] 跳躍動作のコンピューター・シミュレーション

 ヒト身体の2次元神経・筋・骨格系モデルを構築し、これを用いて跳躍動作をシミュレートした。モデルは4つのセグメント(胴体部、大腿部、下腿部、足部)からなり、6つの下肢筋肉モデルが取り付けられた (図1) 。生成された跳躍動作を用いて、実験データ中の測定誤差が逆ダイナミクスの計算手法に及ぼす影響を評価した(→論文リスト(1))。この結果、関節の位置の同定に際しての誤差が、計算結果に大きな影響を及ぼすことが導かれた。更に、このモデルを用いて、下肢筋群に対するトレーニングが垂直跳の跳躍高に如何に貢献するかを評価した(→論文リスト(2))。この結果、膝関節伸展筋群をトレーニングすることが跳躍高の改善に効果的である事がわかった。
図1 ヒト下肢の2次元シミュレーションモデル。
図1 ヒト下肢の2次元シミュレーションモデル。6つの下肢筋群が取り付けられた。

[2] ヒトの足関節に於ける筋腱複合体の挙動の考察

 2次元の足関節モデルを用い、身体運動中の筋腱複合体の挙動をシミュレートした。周期的な足底屈運動中の収縮要素(筋肉)と直列弾性要素(腱)の力学的振舞いを検討した研究(→論文リスト(4))では、運動の周期が短くなるにつれ、腱による力学的出力の貢献度が高まるという結果が得られた。また、
足関節におけるモーメントアーム長と力学的出力との関係を考察した研究(→論文リスト(5))では、運動速度が大きい場合には、モーメントアームの短い方が大きな力学的出力が得られる事が導かれた。

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[3] ヒト身体の3次元シミュレーションモデルの構築

図2 ヒト下肢の3次元シミュレーションモデル。86の下肢筋群が取り付けられた。
図2 ヒト下肢の3次元シミュレーションモデル。86の下肢筋群が取り付けられた。
 より現実のヒト身体に近いモデルを用いた研究を行うために、3次元のシミュレーションモデルを構築した。このモデルのセグメントの数は9、自由度は20、組み込まれた下肢筋肉の数は86(片足に43)であった (図2) 。このモデルを用いて、2種類の跳躍動作をシミュレートした (図3) (→論文リスト(3))。動作のキネマティクス、跳躍高、筋肉の活動パターンの全てに於いて、実際のヒトによる跳躍動作と類似した結果が得られた。

図3 生成された跳躍動作。(A)反動動作の無い跳躍、(B)反動動作の有る跳躍。
図3 生成された跳躍動作。
(A)反動動作の無い跳躍、(B)反動動作の有る跳躍。

 またこのモデルを改変して (図4) 、人類の祖先(アウストラロ・ピテクス)による歩行動作をシミュレートした (図5) (→論文リスト(7))。アウストラロ・ピテクスが直立二足歩行を行った際のエネルギー消費を計算したところ、その値は現代のヒトによる歩行の際の消費エネルギーを、身長・体重の関数としてスケール・ダウンしたものに近かった。これは、アウストラロ・ピテクスが直立二足歩行を行っていた事を支持する結果と見なせる。

図4 アウストラロピテクスの下肢筋骨格系モデル 図5 歩行動作中、右足の踵が地面に着いた瞬間の姿勢
図4 アウストラロピテクスの下肢筋骨格系モデル。骨盤の形状や筋肉の付着位置が現代のヒトとは異なる。 図5 歩行動作中、右足の踵が地面に着いた瞬間の姿勢。

[4] 身体運動の3次元シミュレーションについての方法論

 以上に紹介して来た方向性の研究の更なる普及・発展に貢献するために、この種のシミュレーション研究を実施する際の重要な基礎となる方法論をまとめ、学術誌に寄稿して来た。
  筋肉モデルの構築方法とその使用に際しての留意点(→論文リスト(6))、3次元空間に於ける方向余弦行列の構築方法とその特性(→論文リスト(10))、3次元空間に於ける剛体運動キネマティクスの表現方法(→論文リスト(11))、の3編の論文が既に出版されたか、印刷中の状態となっている(2004年1月現在)。今後更に2編(Kane and Levinson (1985) によって紹介された力学の解法、並びに3次元骨格系シミュレーションモデルの具体的な作成方法)の論文を連載記事の一部として発表する予定である。

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参考文献

[1] Kane, T.R. and Levinson, D.A. (1985). Dynamics: Theory and Applications. McGraw-Hill, New York, NY, USA.

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