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理研外研究員(共同研究員):世良 俊博   論文リスト>>

研究の概要

 肺のコンプライアンスは、気道内の力学現象に対する重要なパラメータの1つであると同時に、臨床において肺機能を表す指標の1つである。肺のコンプライアンスは、肺組織の弾性を気道表面を覆う表面張力によって決定される。従来肺のコンプライアンスは肺全体を評価したマクロ的なものであったが、呼吸器疾患は気管支それぞれの局所で発生する。また気道は均一な組織ではない。そこで本研究では肺の局所コンプライアンスに注目し、特に細気管支のコンプライアンスを評価した。内径150〜300ミクロン程度の細気管支のコンプライアンスに注目した。従来細気管支を摘出して評価されてきたが、実際は周りの肺組織の影響を受ける。
  本研究では、ラット摘出肺を用いて肺実質組織内の細気管支を軟組織の状態で可視化する方法を確立し、さらに呼吸に伴う細気管支の形態および局所コンプライアンスを明らかにした。
図1 Representative micro-CT image showing many small airways and alveoli at FRC. Arrows indicate airways (white: small airways, black: alveoli) and stars indicate vessels. Bar: 500 mm.
図1 Representative micro-CT image showing many small airways and alveoli at FRC. Arrows indicate airways (white: small airways, black: alveoli) and stars indicate vessels. Bar: 500 mm.

図2 Three-dimensional reconstruction from cross-section images using an isosurface approach in VTK.
図2 Three-dimensional reconstruction from cross-section images using an isosurface approach in VTK. (A): the whole airway reconstructed the micro-CT images using the SCT method. (1 cubic voxel size: 43 mm). (B & C): the small airway. (1 cubic voxel size: 16 mm, Diameter range: 300 mm ~ 170 mm, Z: 10 ~ 16). Small arrow in (A) shows the starting point of (B) and (C).
 本実験における細気管支の可視化方法は、血管内に造影剤を潅流し、造影剤が血管から漏れること利用し肺組織を造影剤によって染める手法である。実験には9-10 週齢の雄Wister rat (300 ± 30 g)14匹の摘出肺を用いた。造影剤Sodium diatrizoate 0.8 g/ml水溶液を潅流し、1時間染色後肺を摘出した。可視化装置として高空間分解能を有するコーンビーム型マイクロCTを用いた。

  本手法を用いることによって、細気管支を生理的条件に近い状態で可視化することが可能となり、細気管支の立体構造が明らかになった。さらに、本研究では、細気管支の形態を定量化した。3次元細線化処理によって骨格線を抽出し、各気管支世代(Z)ごとに長さと直径、分岐角を算出した。気管支の長さと直径は、Zに対して指数関数的に減少することがわかった。分岐の非対称性は気管内の力学現象に大きな影響を与えることが知られている。また分岐の非対称性は、Zが大きくなるについて小さくなり、肺胞に近づくにつれて対象に分岐することが判った。
  さらに本手法は、軟組織の状態での可視化することが可能なため、同一細気管支の形態変化も追跡することが可能である。
図3 Three-dimensional structures of same branching network at (A) FRC and (B) TLC. Diameter range at FRC: 300 ~ 170 mm. Airway generation Z range: 10 ~ 16. The arrows (a ~ d) indicated the same dividers in (A) and (B).
図3 Three-dimensional structures of same branching network at (A) FRC and (B) TLC. Diameter range at FRC: 300 ~ 170 mm. Airway generation Z range: 10 ~ 16. The arrows (a ~ d) indicated the same dividers in (A) and (B).

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図1 Localized compliance at TV and TLC (average ア SE.) as a function of Z. *p (between TLC and TV) < 0.05.
図1 Localized compliance at TV and TLC (average ア SE.) as a function of Z. *p (between TLC and TV) < 0.05.
 新たに提案した手法を用いて、肺体積を変化させた際の同一細気管支の形態変化を求め、さらに局所コンプライアンスを評価した。
実験には9-10 週齢の雄Wister rat (300 ± 30 g)15匹の摘出肺を用いた。機能的残気量時(FRC)時と比較して、気管支の長さの増加率(dL)は、1回換気量後(TV)最大肺容量時(TLC)時で18 %, 43 %増加し、また直径の増加率はそれぞれ36, 89 %増加した。また、微視的な直径-圧力曲線は、特に直径が300ミクロン以下の細気管支においてヒステレシスを有し、ある圧力で細気管支の直径が急激に増加する“Pop-open”をいう現象が見られた。その原因として、気道壁の弾性とサーファクタントの表面張力が釣りあって、直径は圧力が小さい間は徐々に増加する。

そのまま圧力を加えると、その釣り合いが崩れ急激に直径が増加していると考えられる。また局所コンプライアンスは、FRC時からTV時(CTV)とFRC時からTLC時(CTLC)を世代毎に求めた。
CTVとCTLCそれぞれZが大きくなるにつれて増加するが、その関係は線形ではく、CTVは下に凸、逆にCTLCは上に凸であった。この結果は、呼吸に伴う細気管支の変形は、同時に変形するのではなく位相のずれを備えていることを示唆している。
 本研究で明らかになった細気管支の局所コンプライアンスは、肺全体でのガス交換シュミレーションの際の重要な情報となる。

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