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協力研究員(理研所属):清水 鉄也 ダウンロードへ 論文リスト>>

研究の概要

人体動作(スイング)の研究

[要約]
  高速度ビデオカメラ2台を使い、人体動作を解析して技術練習を支援するシステムを構築した。
実際のスイング動作を3次元データとして取得し、それを初期条件として最適化計算を行い、実際の動作と最適解を比較した。そうしたところ、上級レベルのゴルフ選手のスイングでも、まだまだ効率のよいスイングが可能であることが明らかになった。実動作と最適解との違いを調べることによって被験者のスイング技術について分析でき、練習のアドバイスとして役立てることができた。
また、最適解を分析することにより、効率よくスイングするための物理について理解が進んだ。

現在のシステムの概要をまとめると以下のとおりである:

図1(a) 人体前方からのスイングの映像 図1(b)人体側方からのスイングの映像
図1
(a) 人体前方からのスイングの映像
(b)人体側方からのスイングの映像

まず、ゴルフ・プレーヤー(上級者が好ましい)に被験者になってもらい、実際のスイングをステレオ撮影する(図1)。
それぞれ人体前方(図1a )および側方(図1b )から、2台の高速度ビデオカメラ(毎秒1000フレーム)を向け、同期を取りながら撮影を行う。

図2(a) 最適解のトルク(それぞれ胴体0、腕1、手首2 のまわりのトルク) 図2(b)実スイングのトルク(最適計算の初期条件)(実線、長・短点線はそれぞれ図2a の線に対応)
図2
(a) 最適解のトルク
(それぞれ胴体0、腕1、手首2 のまわりのトルク)
(b) 実スイングのトルク(最適計算の初期条件)
(実線、長・短点線はそれぞれ図2a の線に対応)


次に、これらの映像からスイング動作の3次元データを抽出し、逆動力学計算により胴体、腕、手首のまわりのトルクを算出する(図2b )。そして、この実スイングのデータを初期条件として、トルク・モデルによる
最適化シミュレーションを行った結果、最適解を得る(図2a )。
最後に、これらの最適解と実スイングの違い(図2)を調べることにより、被験者の現状のスイングの特徴を診断し、さらなる技術向上のための注意点があれば、それを指摘することによってスイングの技術練習に役立ててもらえる。


実際、図1および図2の例は、ほぼシングルのゴルフ上級者に被験者になってもらい、このシステムを適用した結果である。
このように上級者の場合でさえも、同じスイング速度を得るために、実際の動作(図2b )よりも効率のよい最適解(図2a )を得ることができた。
これは、かなり上手なプレイヤーでもスイング動作の上達の余地が大きく残されていることを意味している。
違いをよく見れば、どういう練習をすれば、よりよいスイングへと改善できるかがわかるので、最適化計算は大変有効である。実際にこのようにして練習指導を試みたところ、この被験者はさらに飛距離をのばすことができるようになった。まだ改良の余地はあるものの、現試作段階において十分、我々が構築している
技術練習支援システムの有効性を示すことができたと言えよう(→論文リスト(2))。

将来的には、現状のスイングから被験者にとって理想的なスイングへの練習の道のりを案内するようなシステムに育てあげたいと考えている。もちろん、被験者個人個人の体格・筋力・柔軟性にチューニングされたオーダーメイドの練習メニューを提示することを目指したい。さらに、このようなシステムはスイング動作に限らず、スポーツ一般の技量上達に応用できるはずである。無駄な練習を省き、効率よく上達することを目的とするだけでなく、ケガを引き起こしやすい動作があれば、たとえまわり道をしてでも、それを避けるようなケガ防止機能をも取り入れたい。またこうして、医療的なリハビリ訓練の支援をも可能にすることが期待される。

最適解のスイング(図2a)を物理的に分析した結果
効率よいスイング中においては、回転系における(遠心力、コリオリ力に次ぐ)第3の慣性力「タメのための力」が重要な役割を果たしているということが新たにわかった(→論文リスト(3))。
また、いわゆる「左のカベ」というものには2種類考えられて、そのうちインパクトの瞬間に関する「左のカベ」はあくまで結果として生ずる現象であって、自発的に行う技ではないことも明らかにした(→論文リスト(3))。
以上の研究から、効率よいスイングを行う秘訣として、「胴体回転は、スイング初期に加速を徐々に上げてゆき、インパクトの手前で加速を弱めるだけで、減速はしないこと」と「手首まわりのトルクは、インパクトの直前になってはじめて一気に加えること」などがあげられることが明らかになった(図2aの最適解および論文リスト(3)を参照)。


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