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理研外研究員(研修生):須長 純子 ダウンロードへ 論文リスト>>

研究の概要

背景と目的

 網膜剥離の治療には眼球を外側から圧迫する強膜内陥術が行われていが、この手術では眼球を変形させる量によりその予後が左右されるため、術前に変形量を予測することが求められている。
そこで我々は有限要素法を用いた解析により、手術時における眼球の最適な変形量を求めることを目指して研究を進めている。
 眼球は強膜、脈絡膜、網膜、角膜、水晶体、硝子体等の複数の異なる軟組織により構成され、眼球内部からの圧力と眼球周辺の筋肉、脂肪、神経等の組織からの圧力により形状を保っている。これまでの眼球を対象とした力学シミュレーションでは、衝突による影響の解析や視力矯正手術のための角膜、水晶体を対象とした研究が主で、網膜剥離に大きく関与している強膜、脈絡膜、網膜に関する詳細な力学特性の報告はなされていない。そこで本研究では引張り試験により、眼球の各組織における力学特性の測定を行い、眼球の全組織でのシミュレーションを目指す。

実験方法

 本研究では人眼球の入手が困難なため、大きさがヒトに近い豚眼球を実験対象とする。
開発した引張り試験システム(→横田秀夫のページへ)を用いて角膜、強膜、脈絡膜、水晶体前嚢を対象として実験を行った。引張り試験には打ち抜き装置(→論文リスト(1)
にて各組織のリング状試験片を作成したものを用いた。測定した力学的データはシミュレーションモデルを超弾性体と仮定した(→孫智剛のページへ)ため公称応力−公称ひずみの関係に変換し、環境温度依存性、引張り速度依存性、眼球の位置依存性、異方性の有無において力学的特性を検討した。

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実験結果

 各組織において打ち抜き装置にてリング状試験片を得ることに成功した。また、培養溶液中にて引張り試験を行うことにより生体に近い状況下での力学的データを得ることにも成功した(→論文リスト(1)-(3) 。強膜組織において環境温度依存性が認められた(図1)。
また強膜、脈絡膜の両組織において位置依存性があることが明らかとなったが、相関は認められなかった(図2)。さらに強膜は主成分がコラーゲン繊維であることから異方性の検討を行い、異方性は無いことが確認された(図3)。
図1 強膜における環境温度依存性
図1 強膜における環境温度依存性
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図2 眼球の測定位置による違い
図2 眼球の測定位置による違い
(クリックすると詳細がご覧になれます。)

 このように、眼球の組織により力学的特性が異なることが明らかとなった。また、各組織で破断における応力およびひずみ量に差があることも分かった。強膜組織において環境温度依存性が認められたため、各組織において生体および手術時に近い環境温度における力学的特性の取得が必要と考える。また、眼球は層状構造であることから、接着している複合組織での引張り試験および組織間の剥離試験を行い、より生体に近い力学的特性の取得が必要であると考える。

図3 強膜における異方性の有無
図3 強膜における異方性の有無
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